保育士試験の近年の合格率は20%前後で推移しており、資格試験の中でも合格率が低く難易度が高い試験です。
“20%前後”という数値は独学に限らず、通信講座で学んだ受験者も含まれているため、独学のみで考えると合格率は”20%”以下になることが想定できます。
ほかの資格と合格率を比較してみましょう。日商簿記検定3級は2023年11月試験だと25,727人が受験して合格率は33.6%とやや高めです。しかし同日開催の日商簿記検定2級だと9,511人受験の11.9%と難易度は高め。2級はビジネス向けにもなりレベルが高くなることから、合格率が一気に下がるのが特徴です。
ほかの試験でみても、秘書検定で最難関の1級レベル(23年11月試験で合格率28.3%)と保育士試験の難易度が高いことが分かります。
そこで、そんな保育士の独学での合格を目指すにあたって、必要な情報を調査してまとめました。
今回は、上記の内容をそれぞれ詳しく解説していきます。(5分ほどでサックリ理解できるようまとめました。)
【結論】保育士に独学で合格することは可能か?
“独学”で保育士の合格を目指すうえで「勉強はどのくらい必要なのか?難しいのか?」など、多くの方が不安に感じる要素はいくつか存在します。
しかし、まずは勉強量を度外視して「そもそも保育士は、大学や講座に通わなくても合格する可能性は1%でもあるのか…?」について、調査結果をまとめました。
いくら独学で勉強しても「受験資格」などが必要だった場合は、学校や講座に通う必要が出てくるものです。
ここでは大きく以下2つの観点から、調査結果をまとめています。
- 「合格率から分析する試験の難易度」の観点
- 「受験資格」の観点
①合格率から導く!保育士の一般的な難易度レベル
年度 | 合格率 | 合格者数 | 受験数 |
---|---|---|---|
平成24年度 | 18.6% | 9,726人 | 52,257人 |
平成25年度 | 17.4% | 8,905人 | 51,055人 |
平成26年度 | 19.3% | 9,894人 | 51,257人 |
平成27年度 | 34.3% | 23,165人 | 67,504人 |
平成28年度 | 25.8% | 18,229人 | 70,710人 |
平成29年度 | 21.6% | 13,511人 | 62,555人 |
平成30年度 | 19.7% | 13,500人 | 68,388人 |
令和元年度 | 23.8% | 18,330人 | 77,076人 |
令和2年度 | 24.3% | 10,890人 | 44,914人 |
令和3年度 | 20.0% | 16,600人 | 83,175人 |
令和4年度 | 29.9% | 23,758人 | 79,378人 |
保育士試験は毎年4月と10月の2回実施されます。それぞれ筆記試験に合格すると、実技試験が約2ヵ月後に実施されます。4月の場合は6~7月、10月の場合は12~1月頃に実技試験を実施予定です。
筆記試験だけでも取り扱う科目が多く、筆記試験に合格した後も音楽・造形・言語に関する実技試験を2分野選択して受験する必要があります。これらをくぐり抜けた平均合格率が20%前後なので、かなり試験の難易度は高いと見れます。
筆記試験では9科目においてそれぞれ6割以上を得点した場合に合格となります。実技試験でも同様に、受験した2分野とも6割以上の合格点を出す必要があります。
直近5年の合格率をみても20%前半から20%を切ってしまうこともあり、独学で保育士試験の合格を目指すのはかなり難易度が高いでしょう。
②クリアすべき受験資格は無いのか?
2年以上の専門学校・短期大学、または大学を卒業した方であれば保育士と関係の無い学科でも受験資格があります。在学中や中・高卒の方でも要件を満たすと受験できるのでチェックしてみてください。
<4年制大学>
- 在学中または卒業した方は学部・学科に関わらず受験資格あり
- 2年以上在学して62単位以上修得済みであれば学部・学科に関わらず受験資格あり
- 2年以上在学して62単位以上修得済みであれば中退していても学部・学科に関わらず受験資格あり
<短期大学>
- 在学中または卒業した方は学部・学科に関わらず受験資格あり
<専門学校>
- 学校教育法に基づいた専修学校で卒業または在学中の課程が修業年限2年以上であれば学科に関わらず受験資格あり
- 上記を満たさない場合、平成3年3月31日以前または保育科で平成8年3月31日以前に高校卒業していれば受験資格あり
<高等学校>
- 平成3年3月31日以前、または保育科で平成8年3月31日以前の卒業であれば受験資格あり
- 上記を満たさない場合、2年以上かつ2880時間以上 児童などの保護または援護に従事した勤務経験があり、受験資格に該当する施設であれば受験資格あり
<中等学校>
- 5年以上かつ7200時間以上 児童などの保護または援護に従事した勤務経験があり、受験資格に該当する施設であれば受験資格あり
その他、海外の学校を卒業した場合や保育現場での勤務経験による受験資格もあるので確認してみてください。
【押さえるべき】合格の可能性を左右する3つの要素
独学で保育士の合格を目指すうえでは、一人で勉強するとなると、それなりの苦労も。
早速ですが、一番気になるであろう「独学で~~の勉強をする上で、重要になるであろう要素」について答えをまとめておきました。
【No.1】筆記試験の出題科目は数が多く独学も大変
保育士試験の筆記試験は出題科目が9科目と数が多いです。教育原理と社会的養護の試験時間は30分ですが、その他は1時間と試験時間も長いです。独学でこれらの科目を網羅するのは大変です。
筆記試験はすべて必須科目で、各科目6割以上の得点が必要とされています。すべての科目をバランスよく勉強しないと、一発合格を目指すのは難しいでしょう。
試験形式 | 科目名 | 種類 |
---|---|---|
筆記試験 | 保育原理 | 必須 |
筆記試験 | 教育原理 | 必須 |
筆記試験 | 社会的養護 | 必須 |
筆記試験 | 子ども家庭福祉 | 必須 |
筆記試験 | 社会福祉 | 必須 |
筆記試験 | 保育の心理学 | 必須 |
筆記試験 | 子どもの保健 | 必須 |
筆記試験 | 子どもの食と栄養 | 必須 |
筆記試験 | 保育実習理論 | 必須 |
【No.2】筆記試験合格後の実技試験、対策をどう取るか
筆記試験に合格すると、1~2ヵ月後に実技試験を受けなければいけません。こちらは3分野のうち2分野を選択して、それぞれ6割以上の得点を取ると合格です。出題分野は以下になります。
試験形式 | 科目名 | 種類 |
---|---|---|
実技試験 | 音楽に関する技術 | 2つ選択 |
実技試験 | 造形に関する技術 | 2つ選択 |
実技試験 | 言語に関する技術 | 2つ選択 |
音楽では楽器を使った弾き歌い、造形では出題テーマに関する絵画を描く、言語では3歳児クラスの園児を想定して童謡または昔話を話すことが求められます。いずれも学校での実習や勤務経験がないと独学での対策は難しいかもしれません。
【No.3】試験日から学習計画を自分で立てる必要がある
保育士試験は前期と後期の年2回実施されています。受験の申し込みは約3ヵ月前に締め切られるので、受験を志したタイミングで申し込みが間に合う場合は申し込んでみましょう。そのため短くても3ヵ月は試験日まで時間があるということになります。
3ヵ月の間にまずは筆記試験の対策に必要な学習計画を立てなければいけません。初めて試験を受ける場合、各科目でどれくらいの勉強時間が必要になるかが分かりづらく計画も立てづらいです。
参考に、2025年度の試験日程を紹介します。
前期
筆記試験 | 2025年4月19日(土)、20日(日) |
---|---|
実技試験 | 2025年6月29日(日) |
後期
筆記試験 | 2025年10月18日(土)、19日(日) |
---|---|
実技試験 | 2025年12月7日(日) |
保育士の勉強を独学で進めるメリット・デメリット
独学で保育士に挑むことは、かなり苦労することはわかりますが、もちろん良いこともあります…!
もちろん「苦労する」などのデメリットがあることも事実ですので、その両面から〜試験名~の独学について分析しました。
【分析】独学がメリットの理由
独学であれば最低限のテキストを揃えるだけで試験勉強に取り組めるので、学校に通ったり通信講座を始めるよりもかなりコストを抑えられます。テキストだけであれば数千円から1万円程度の費用で始められるので、コストを抑えたい場合は独学がおすすめです。
自分でどんなテキストを揃えて勉強するべきか分からないという場合は、学校よりも更にコストを抑えられる通信講座がおすすめです。通信講座であればテキスト代などを含めても2~7万円と数万円程度で受講できます。
短大など通学制の学校に通うとなると、決まった時間に設定された講義を受けなければいけません。単位制なので講義を休むと卒業が難しく、その分費用や時間が増えてしまうリスクがあります。
一方で独学での試験対策であれば、保育科以外の学校に通っている方や仕事中の方でもスキマ時間に勉強に取り組めます。通信講座も対応期間が決められている場合があり、数ヶ月以上かけて勉強したい方にとっては利用しづらいでしょう。フレキシブルに試験勉強に取り組めるという利点は独学の魅力であるといえます。
独学なので好きな場所で試験勉強できるところもメリットです。短大となると通学する必要があるので、社会人の方や子育てなどで忙しい方にとっては難しいでしょう。自宅で勉強できるので、コストや時間もカットすることができます。
【分析】独学のデメリットと対策法
筆記試験対策は独学でもなんとか対策することができます。しかし実技試験対策となると、独学での対策は難しいかもしれません。実技試験は試験官を前にした技術をアピールする試験です。
たとえば音楽であれば弾き歌いがうまくできているか、造形であれば自分が描いた絵が評価できるものであるかを客観的に捉えて課題を見つけなければいけないため、独学での対策は非常にレベルが高くなってしまいます。筆記試験に合格した後は、独学でどのように対策をするべきか検討しておきましょう。
※対策法※
自分だけで実技試験対策に取り組むと、どうしても主観的目線で評価をしてしまいます。そのため、第三者、可能であれば保育士など受験経験のある方に評価してもらうよう協力を依頼してみましょう。
その場での評価が難しい場合はビデオを撮ったり成果物の写真を撮るなどして、後日チェックしてもらうのもひとつの手段としておすすめです。
学校や通信講座であれば専門講師の方に分からないところを直接聞けるというメリットがあります。
しかし独学の場合は、試験勉強中に分からないところを聞ける手段がありません。こうなると疑問点を抱えたまま試験に取り組むことになってしまい、本質を理解できないまま合格できなかったり、合格しても実際の仕事場面で能力を発揮できない可能性があります。
※対策法※
対策としては身近にいる保育経験者に尋ねること、または保育士が運用するSNSやブログから情報を得ることが挙げられます。
身近に保育経験者がいないとネット上で確認する手段だけとなってしまいますが、この場合与えられてる情報が正しいとは限らないので、できる限り数多くの情報を確認してみてください。もしくは、保育関連の図書を読みあさってみるとネットの情報よりも信憑性がかなり高いので、時間を作って調べてみてください。
保育士試験の試験概要が変更されると、その変更内容によっては試験対策を変えなければいけません。
また、時事問題が出題されるので予測が必要です。試験に関する最新情報や傾向は学校や通信講座を取っている方であればすぐに伝えられますが、独学の場合だと自分から情報を取得しにいかなければならず、試験を攻略しづらいといえます。
※対策法※
このデメリットの対策はなかなか難しいです。最新版のテキストが発売されたら購入してみる・保育関連のニュースはしっかりチェックしておくといった努力の積み重ねによって、時事問題や最新の試験概要について対策できるかもしれません。
独学で効率良く勉強する方法とは?
最後に、独学で効率良く合格を目指すために!押さえておくべき、3つのポイントをまとめておきました。
ポイント① 教材の選び方
- 筆記科目の内容が網羅された参考書
- 過去の出題傾向が分かる問題集
- 知識のアウトプットがしやすい問題集
独学の場合、正しい知識をインプットするために筆記科目の内容を解説してくれる参考書が必要です。いわば教科書となるため、講義形式で分かりやすく伝えてくれるテキスト、もしくは用語の意味などをしっかり解説してくれるイラストなどを使ったテキストなどを揃えておきましょう。
ポイント② 筆記試験の合格科目免除期間制度を活用する
- 合格した科目は通常3年間は合格が有効となる
- 合格有効期間に試験を再受験する場合は、合格科目は試験が免除される
- 対象の施設で対象の期間内に一定の勤務時間、児童等の保護に従事した場合最長5年まで延長可能
合格した筆記試験の科目は3年間が合格期間とされるので、たとえば筆記試験をすべて合格していれば、3年以内に実技試験の対策をして実技試験のみ受けるという方法もアリです。対象の児童保護従事を満たしていれば、3年から5年に延長されるので、よりゆとりを持って再受験対策に取り組めます。
ポイント③ 幼稚園教諭免許を所有している場合は特例アリ
- 臨時免許ではない幼稚園教諭免許を所有している方が対象の特例制度
- 幼稚園等での実務経験有無によって免除可否が決まる
- 一部の科目のみ試験が免除される
幼稚園教諭免許を取得した後、対象施設で3年以上かつ4,320時間以上の実務経験を有する場合、特例措置として筆記科目の「保育の心理学」、「教育原理」、「保育実習理論」に加えて実技試験も免除されます。免許がある方はかなり負担を減らせる特例措置です。
【考察結果まとめ】保育士試験の独学は難しいのか?
今回は以下のポイントについて、それぞれ詳しく調査結果をまとめました。
・保育士試験は合格率が20%前半と難易度が高め
・大学や短大在学中の方も学科や科目に関係なく受験することは可能
・筆記試験は全部で9科目あり、合格後は実技試験を受ける必要あり
・独学で取り組む場合は実技試験の対策を考えなければいけない
・合格科目の試験免除期間を有効活用できれば独学でも対策できる
独学でのチャレンジはもちろん難しいですが、誰にでも可能性はあるので、ぜひ当サイトの情報も役立てながら、挑戦してみてください。